この家族を語る上で欠かせないのが、父・黒柳守綱と母・黒柳朝の存在だ。父の守綱はNHK交響楽団の前身である新交響楽団でコンサートマスターを務めた天才演奏家であり、母の朝は自伝的エッセイで多くの読者を魅了した情熱の作家であった。まさに芸術的才能が凝縮された家庭環境である。
音楽と文学が日常に溢れる家で育った貴之もまた、父譲りの繊細な感性と母ゆずりの強い意志を受け継いでいた。家庭内では日常的にクラシック音楽が響き渡り、自由な議論が交わされていたという。激動の戦中・戦後を生き抜く中で、このアーティスティックな血脈は、姉には「言葉と演技」の才能として、弟には「真摯に自己の道を歩む実直さ」として結実していくことになる。