2016年5月、東京都小金井市で起きた冨田真由さん刺傷事件は、全国に強い衝撃を与えた。当時大学3年生で音楽活動をしていた冨田真由さんは、ライブ会場前で執拗に付きまとっていたファンの男性に首や胸などを複数回刺され、重体に陥った。
事件のわずか12日前、冨田さんはすでに動いていた。男が一方的にプレゼントを送りつけ、SNSに執拗な書き込みをすることに恐怖を感じ、警視庁武蔵野署を訪れて相談していたが、署は「切迫性がない」と判断して本部のストーカー専門部署に報告していなかった。その判断の代償は、あまりにも大きかった。
加害者の岩埼友宏は、冨田さんに対し一方的な好意を抱き、執拗なプレゼント送付やSNSでのメッセージを繰り返した。冨田さんがプレゼントを拒否すると、「死ねばいいのに」「殺してやる」といった過激な脅迫メッセージを送るようになった。それでも警察は、動かなかった。
冨田さんは首や胸など20カ所以上をナイフで刺されており、首付近の傷が特に深かったが、心臓など内臓への損傷は免れていたという。事件発生後、約2週間後となる2016年6月3日に意識が回復した。医師たちは「奇跡的」と表現した。しかし命が助かったことは、苦難の終わりではなく、別の意味での長い闘いの始まりだった。