伊丹十三の妻であり、彼の映画のミューズでもあった宮本信子。彼女にとって、二人の息子を育てる日々は、女優としての黄金期と完全に重なっていた。撮影現場では厳しい監督と主演女優として対峙し、家に帰れば二人の男の子の母親に戻る。その切り替えは並大抵のものではなかった。
宮本はかつて、子どもたちに対して「普通の家庭らしいことは何もしてあげられなかった」と漏らしたことがある。しかし、息子たちの視線は違っていた。両親が本気で仕事に向き合う姿、クリエイティブな熱量に満ちた家庭環境こそが、彼らにとって最高の教育だったのだ。言葉ではなく背中で語る、それが伊丹家の教育方針だったと言える。