ミルフィーユの制作において、パティシエが直面する最大の問題がある。それは「湿気」だ。
出来立てのパイ生地は極めて乾燥しており、水分を吸いやすい。一方、間に挟むカスタードクリームは豊富な水分を含んでいる。時間を置けば置くほど、クリームの水分がパイに移行し、あの感動的なサクサク感は損なわれてしまう。
この宿命に対抗するため、フランスの製菓界は「フィユタージュ・アンヴェルセ(逆折り込み)」と呼ばれる画期的な技法を生み出した。
通常の製法では「生地でバターを包む」が、アンヴェルセでは「バターで生地を包む」。バターが外側に来ることで、グルテンの形成が抑えられ、焼成時に生地がホロホロと崩れるような極上の食感が生まれる。さらに、水分の侵入を大幅に遅らせることが可能となった。