上野の西郷隆盛像を目にした多くの人が抱くのが、「なぜ偉大な軍人なのに、浴衣(着流し)に草履というラフな姿なのか」という疑問です。この独特なデザインは、当時の日本彫刻界を代表する巨匠・高村光雲(本体担当)と、動物彫刻の大家・後藤貞行(愛犬担当)の手によって生み出されました。
西郷が軍服を着ていない理由には、主に2つの側面があります。
- 政治的な配慮:西南戦争で反乱軍の首謀者となった西郷に「大日本帝国陸軍大将」の軍服を着せることに対しては、陸軍首脳部(山県有朋ら)からの反発が根強くありました。
- 庶民派ヒーローとしての演出:西郷は生前、ウサギ狩りを好み、愛犬たちと山野を巡る素朴な暮らしを何よりも愛していました。権力を嫌い、民衆と同じ目線で生きた西郷の人間性を表現するため、あえて日常の「狩猟姿」が採用されたのです。
連れている愛犬の名前は「ツン」。薩摩の名犬として知られたメスの薩摩犬でしたが、彫刻制作時にはすでに他界していたため、別の薩摩犬のオスをモデルにスケッチされたというエピソードも残っています。威圧的な武力ではなく、親しみやすい日常の姿で佇んでいるからこそ、上野の西郷像は100年以上の時を超えて国民的な人気を保ち続けています。