驚くべきことに、父・三省さん自身はピアノを演奏することができません。楽譜の専門的な読み書きを教え込むような指導ではなく、徹底して「耳と感性」を研ぎ澄ませる独自のアプローチを実践しました。
三省さんは風が3歳の頃から、クラシックの巨匠ショパンやベートーヴェンをはじめ、ビル・エヴァンスなどのジャズ、スティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンといった洋楽ポップス、さらには日本の昭和歌謡や演歌に至るまで、ありとあらゆるジャンルの名曲をシャワーのように聴かせました。
そして、流れている曲に対して「今の音をピアノで鳴らしてみろ」と促し、聴いた音を即座に鍵盤で再現する耳コピトレーニングを遊び感覚で繰り返したといいます。楽譜にとらわれず、音そのものを身体で捉えて即興でアレンジする藤井風の柔軟なプレイスタイルは、まさにこの父親による直観的教育の賜物でした。