『九十歳。何がめでたい』の真の魅力は、安易な「ポジティブ思考」への徹底したアンチテーゼにある。「前向きに生きましょう」「感謝して年を重ねましょう」といった耳触りの良いお題目を、本作は小気味よく叩き壊す。朝起きれば体が重く、世の中のデジタル化にはついていけず、周囲は勝手に「穏やかなおばあちゃん」を求めてくる。そのすべてに対して「冗談じゃない」と中指を立てる痛快さがある。
しかし、本作は単なるアナーキーな反抗劇ではない。怒りの底にあるのは、不器用にしか生きられない人間への深い慈しみだ。思い通りにいかない身体と格闘しながら、それでも原稿用紙に向かう主人公の姿は、観る者に「人間、何歳になってもジタバタしていいのだ」という強烈な赦しを与える。笑いながら劇場を後にする頃には、不思議と明日を生きる肩の荷が軽くなっていることに気づかされる。