ボーカルとギターを担う薬師寺寛邦は、単なるミュージシャンではない。愛媛県今治市にある寺院の住職として日々法務を務める、生粋の僧侶だ。彼がマイクの前に立つとき、そこには伝統芸能の継承者としての誇りと、ポップスを愛するソングライターとしての鋭敏な感覚が同居する。
制作の原点は、意外なほど素朴な違和感だったという。法事やお参りの場で唱えられる経典の響きは美しいのに、なぜ寺の外に出ると遠い存在になってしまうのか。「音楽という普遍的な器に載せれば、お経はもっと身近な祈りとして生き返るのではないか」――その直感が、名曲の誕生を後押しした。薬師寺はスタジオに籠もり、幾層ものコーラスを一人で重ね、経文の持つ独特な音節の区切りを現代のビート感へ巧みに落とし込んでいった。単なる電子音のループではない。生身の人間が発する声の揺らぎを丹念に編み上げたトラックは、聴く者の防御壁をすんなりとすり抜け、張り詰めた神経を芯から緩めていく。