日本全国に100箇所以上の水族館が存在するなかで、シャチを飼育する施設が3館に留まっている背景には、極めてシビアな現実が存在します。主な要因は国際的な規制、莫大なコスト、そして突出した飼育難易度の3点です。
第一に、野生個体の捕獲と輸出入に対する世界的な規制強化が挙げられます。ワシントン条約(CITES)により、現在では学術研究目的以外の商業的な国際取引が厳しく制限されています。かつてのように野生から新規に搬入することは実質的に不可能であり、既存の国内飼育個体による繁殖に頼らざるを得ない状況です。
第二に、維持管理にかかる天文学的な費用です。成体のシャチは1日に数十キログラムもの新鮮な魚(ホッケやサバ、サケなど)を消費し、年間のエサ代だけでも1頭あたり数千万円規模に達します。さらに、巨体を支える数千トン規模の清浄な海水を循環・水温管理し続けるための電気代や設備投資は、限られた大規模水族館でなければ到底維持できません。
第三に、高度な知能と繊細なメンタルケアが求められる飼育の難しさです。過去には国内の水族館で感染症や胃潰瘍などによる死亡ニュースが報じられた歴史もあり、大型海洋哺乳類の健康を長期にわたって維持することは獣医学的にも極めて高度な専門性を要します。世界的なアニマルウェルフェア(動物福祉)への関心の高まりも相まって、新規参入のハードルは極限まで高くなっています。