一郎彦が抱いた「心の闇」の根源は、成長しても伸びない牙や生えてこない毛皮といった、目に見える肉体的な違和感から始まった。養父である猪王山は、彼を実の子として深い愛情で包み込み、誇り高きバケモノの戦士として育て上げようと尽力した。しかし、その歪みのない無償の愛こそが、かえって一郎彦に「自分は父のようになれない」という強い劣等感と恐怖を植え付ける結果となったのだ。
人間であることを隠し通そうとする父の優しい嘘は、皮肉にも少年の純粋な精神を蝕んでいく。父を崇拝すればするほど、バケモノになれない己の肉体を呪い、アイデンティティは崩壊へと向かった。自分が人間であることを受け入れられず、内なる虚無を埋めるために闇へと身を投じた展開は、親子の絆がもたらした切ない悲劇と言える。