欧米の美術界において、喜多川歌麿の春画に対する評価は日本の一般的な認識をはるかに上回る高さを誇ります。かつてエドモン・ド・ゴンクールらフランスの知識人・美術批評家たちが歌麿を「女性心理の解剖学者」と激賞したように、その評価軸は露骨なエロティシズムではなく、極限まで研ぎ澄まされた芸術性と心理表現にあります。
2013年に大英博物館で開催され、世界中に衝撃を与えた大規模な春画展『Shunga: sex and pleasure in Japanese art』においても、歌麿の作品は中核的なハイライトとして展示されました。来館者を驚かせたのは、男女の交歓そのものよりも、絡み合う指先の緊張感、半開きになった唇の湿り気、恍惚と恥じらいが同居する複雑なまなざしです。
他の一流絵師たちが情交のダイナミズムや誇張された肉体を前面に押し出したのに対し、歌麿が捉えたのは「愛撫の合間に生じる一瞬の沈黙」や「男女のあいだに流れる空気の温度」でした。身体のディテールを通じて人間の内面世界を可視化する独自の表現力こそが、国境や文化を飛び越えて世界中の鑑賞者を惹きつける最大の要因です。