「殯」という古の概念は、単なる歴史の遺物にとどまらず、現代の文化や心理学の領域でも重要な示唆を与え続けています。
その代表例が、カンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別大賞)を受賞した河瀬直美監督の映画『殯の森(2007年公開)』です。本作では、認知症を患い亡き妻の面影を追い続ける老人と、幼い我が子を事故で亡くした介護士の女性が、奈良の深い森の奥で寄り添いながらそれぞれの喪失と対峙する姿が描かれました。
死者を即座に火葬し、数日のうちに社会生活への復帰を求められる現代の管理社会において、多くの人々が「死を受け入れるための十分な時間」を奪われています。文化人類学や心理臨床の立場からも、殯が本来持っていた「悲哀の時間を区切り、森や自然の中で感情をじっくりと熟成・昇華させるプロセス(グリーフワーク)」の重要性が、今改めて見直されているのです。