高校卒業後、吉田沙保里氏が進学先として選んだ中京女子大学(現・至学館大学)で待っていたのが、女子レスリング界の名将・栄和人監督でした。父・栄勝氏が「個の技術と闘争心」を研ぎ澄ましたのに対し、栄監督は「世界基準のフィジカル強化と過密日程を勝ち抜く実戦戦術」を徹底的に叩き込みました。
栄監督の指導法は、徹底した追い込みと集団内の連帯感を利用したメンタル強化が特徴でした。当時の合宿風景を記録した報道映像でも、選手と指導者が感情を剥き出しにしてぶつかり合うシーンが多々見られました。吉田氏はこの環境下でキャプテンとして常勝軍団を牽引し、自他共に認める絶対的エースとして君臨したのです。
しかし、2018年に女子レスリング界を揺るがしたパワーハラスメント問題が表面化すると、両者の関係性にも大きな転機が訪れます。日本レスリング協会の強化本部長および至学館大学の監督職から栄氏が解任される事態となり、長年築かれた指導体制は事実上の解体を迎えました。恩師を巡る騒動の渦中に置かれた吉田氏は、沈黙を保ちつつも中立的な立場から選手たちの環境保全に心を砕いたと伝えられています。