巨匠の業績を語る上で絶対に外せないのが、吸血鬼(バンパネラ)の少年たちの時空を超えた旅路を描いた『ポーの一族』である。時間を止められたエドガーとアランの哀切な物語は、単なるファンタジーの枠を遥かに超え、永遠の若さがもたらす孤独と残酷さを美しく描き出した。緻密な背景描写と流れるようなコマ割りの美しさは、読者を一瞬でヨーロッパの旧家に迷い込ませる力を持っている。
一方、ドイツのギムナジウム(寄宿学校)を舞台にした『トーマの心臓』は、ひとりの少年の自殺から始まる青年の葛藤と愛の救済を描いた叙事詩だ。愛とは何か、許しとは何かという重厚なテーマが、研ぎ澄まされたセリフと心情描写で綴られる。少女漫画という枠組みを完全に解体し、純文学にも匹敵する精神性を打ち立てた名作として、今なお読み継がれている。