『下町ロケット』のキャスティングにおける最大の特色は、落語家やお笑い芸人をキーパーソンとして大胆に登用した点にあります。単なる客寄せの話題作りではなく、彼らは物語のリアリズムを担保する決定打として機能しました。
落語家の立川談春が演じた殿村直弘は、大田区の町工場に不可欠な「金勘定と人情の狭間で苦悩する番頭」そのものでした。撮影現場の証言によると、演出を手掛けた福澤克雄氏は「落語家は一人で何役もの人間心理を語り分ける話芸のプロ。人間の機微を表現させたら俳優以上に生々しい」と絶賛したといいます。殿村が実家の米農家を継ぐ決意をする2018年版のシーンでは、談春の滲み出る哀愁と覚悟が多くの視聴者の涙を誘いました。
また、佃製作所の現場技術者・迫田滋を演じた今野浩喜(元キングオブコメディ)は、愚痴っぽく疑り深い一面を持ちながらも、いざという時には佃の情熱に巻き込まれていく「普通の中小企業社員」を完璧な体温で体現しました。さらに、2018年版で天才エンジニア・島津裕を演じたイモトアヤコは、バラエティ番組で見せる快活さを完全に封印。技術開発への情熱と挫折を瞳の揺らぎだけで表現し、ギャラクシー賞月間賞を受賞するなど劇評家からも極めて高い評価を獲得しました。
終盤に登場した古坂大魔王(安東仁役)の胡散臭いキレモノぶりも含め、芸人たちが持ち込む「日常の生々しい間合い」と「顔の表情筋の豊かさ」が、日曜劇場の濃密な劇空間と完璧に融和したのです。