結論から述べる。「制欲剤」という名称の医薬品は、日本の薬機法上、2026年時点で承認されていない。厚生労働省の承認医薬品リストにも、一般社団法人日本泌尿器科学会のガイドラインにも、その名はない。ネットで「制欲剤 処方」と検索すると、あたかも専用薬が存在するかのような情報に行き当たるが、これは大半が誤解または意図的な誇張表現だ。
実際に医療現場で「性欲抑制」の目的で処方されるのは、主に以下の3系統の薬剤である。第一に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬。代表的なものにパロキセチン(商品名:パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、フルボキサミン(デプロメール/ルボックス)がある。これらの薬は本来うつ病・不安障害の治療薬だが、副作用として性欲減退や射精遅延が高頻度で現れるため、「性欲を抑えたい」という患者に処方されることがある。第二に、抗アンドロゲン薬。男性ホルモンの働きを抑制する薬で、前立腺がん治療薬のリュープリン(リュープロレリン)やビカルタミドなどが該当する。第三に、女性に使われる低用量ピルやホルモン剤だ。
ただし、これらはすべて「適応外処方」に該当するケースが多く、医師の裁量と患者の同意の上で行われる。つまり、病院に行けば必ず“制欲剤”を出してもらえる、という認識は根本的に誤りだ。